受賞したんです

 パーティードレスに身を包み、私は恵比寿のホテルにタクシーを乗り付けた。さっきまで撮影をしていた私はスタジオから大急ぎでやって来たのだった。今日ここで日本国内のデジタル・コンテンツに与えられる最も権威ある賞であるAMD Award'98の授賞式がある。うちの父も今年度の受賞者のひとりなのだ。
 私が会場に入った時にはもう授賞式は終盤にさしかかっていた。出席者一同静かに着席しているなか、ステージではAMD会長の挨拶が行われているところであった。遅れてきた私はどきどきしながら空いている席を探して腰を下ろした。首をのばして辺りを見回すと前方にピーンと背筋をのばした父と、いつもどおりゆったりかまえた母の後ろ姿がある。もう父の受賞シーンは終わってしまったらしい。父が受賞したのは「Best Music Composer」。音楽分野におけるマルチメディアに関する活動で功績のあった人に贈られる賞である。父は前回も紹介済みの『rokkets.web』というホームページ活動が評価されたのであった。受賞の瞬間が見られなかったのはちょっと惜しい気がした。
 拍手とともに授賞式は終わり、皆が一斉に立ち上がる。私は両親の元に駆けつけた。今夜の父と母はタキシードとドレス姿でキマっている。「ああ、あんた今来たんね」遅刻してきた私は少したじろぎながら「そう、さっき着いたんよ。お父さんもう受賞したんやね」と言った。すると父はにこりとして胸についたブルーリボンを指さした。青いシルクのリボンが艶やかに光っている。「わたしもよ」、なんと母の胸にもブルーリボンがついているではないか。「Sheena&Rokketsのホームページで受賞したんだから、当然やんけ」と父が言う。
 そうこうしている間になにやらステージが騒がしい。受賞者の記念撮影だ。たくさんの取材陣がカメラを構えている。父も案内されステージに上がる。「お二人もご一緒にどうぞ。」と、スタッフの方。リボンがついている母は堂々としたもので「いこう!」と私を促す。受賞者でもない私はおろおろと母の後をついてステージに上った。気がつくと受賞者とご一緒にどころか、父の隣で最前列だった。洪水のようなフラッシュが焚かれ、突然のことに少し狼狽した。ふと横目に見ると母は笑顔でそれに答えていた。思えばバンドとして夫婦として一緒にやってきたパートナーである父の受賞は、母にとってもかけがえのないものなのだ。そんな2人を見ていて私もなんだかウキウキしてきて気がつくとカメラに笑顔をむけていた。
 パーティー会場のステージでは受賞者のスピーチが始まった。しばらくすると、父にも順番が回ってきた。司会の人に「ご家族でどうぞ。」と言われ、父は母と腕をくんでステージに上がっていく。今度は堂々と後ろから私も続いた。慣れた手つきでマイクスタンド持つ父を母と私は挟む形で立ち、なんだかライブが始まりそうだった。「この度は・・・」隣でスピーチを聞きながら私は父が4年前にPCと出会ってからの日々を思い起こしていた。日本のインターネットの世界に「ロック」を本格的に持ち込んだのは父だ。それまでコンピュータに全く無縁だった父はパソコンを買うやいなや自力でホームページを立ち上げ、それからどんなに時間の無い日も毎日更新を欠かさなかった。また、インターネット上に次から次に登場する「新しいこと」にもすぐに飛びついては取り組んできた。ミュージシャンとしての活動の傍らここまでインターネットそしてPCをあそび道具として楽しんでしまうのは、我が父ながら、大したことではないかと素直に思っている。私は熱心に話している父を尊敬の眼差しで見ていた。父の最後の言葉「賞をありがとう。Keep On Rokkin'!」拍手がわき上がった。